冬菇(どんこ)
晩冬から早春にかけて寒い時にゆっくりと成長します。縁を太く巻き込み、傘の肉は厚く、全体が丸みを帯びています。
世界農業遺産に認定された平成25年5月以降、「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循 GIAHSプロジェクトアクションプラン」(計画期間:平成25年度~29年度)に基づき、具体的な取組を進めてきました。この間、行政や関係機関が協力し、「農林水産業とそれらと関連した人々の営みの次世代への継承」と「GIAHSブランドを活用したものづくりや交流人口の拡大等による地域の元気づくり」を柱に様々なプロジェクトを実行してきました。
初期のプランの取組成果や課題、農林水産省世界農業遺産等専門家会議の助言事項を踏まえ、平成30年2月に、今後5年間に取り組むアクションプランを策定しました。 改定後のアクションプランに基づき、伝統的な農林水産業システムの「次世代への継承」と世界農業遺産ブランドを活用した「地域の元気づくり」を目指し、取組を進めていきます。
計画期間:平成30年度~34年度(2018年度~2022年度)
国東(くにさき)半島・宇佐地域は、九州の北東部、瀬戸内海の南端に突き出した丸い半島を中心とした4市1町1村で構成されています。
地形は、中央部にある両子(ふたご)山系の峰々から放射状に延びた尾根と深い谷から成り、平野部は狭小で、短く急勾配な河川が多数あります。
また、降水量が少ない上に雨水が浸透しやすい火山性の土壌であるため、古くから「水」の確保が困難であった地域です。
面積 | 1,323.75㎢ |
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人口 | 167,992人 うち農林漁業者数 10,208人 (H27) |
気候 | 温帯湿潤気候( 瀬戸内海式気候) |
主な産業 | 農林水産業、精密機器の製造業 |
平均降水量比較 |
この地域では、クヌギを利用した原木しいたけ栽培が伝統的に行われています。クヌギは、しいたけの成長に必要な栄養源を供給し、原木しいたけを育んでいます。
クヌギという森林資源が、原木しいたけという食料を産み出すシステムは、耕地が限られたこの地域において、栄養・生活保障の面で大きく貢献しています。
さらに、原木しいたけ栽培が行われることで、クヌギ林の伐採と再生が繰り返され、森林の新陳代謝を促し、水資源のかん養など森林の公益的機能の維持が図られるとともに、里山の良好な環境や景観保全につながっています。
かつて、この地域の人々は、足りない水と戦いながら自然の地形を活かした水田農業を営んできました。そうした努力の跡を、15世紀からほとんどそのままの姿で現在に伝えるのが「田染荘(たしぶのしょう)小崎(おさき)の農村景観」です。
山麓一帯にはクヌギ林が適切に管理され、そこでかん養された水源が水田農業や多様な生態系を育み、里山と農村の美しい景観を形成しています。11世紀の荘園遺跡に起源を持ち、14~15世紀の耕地・村落の基本形態が継承されていることが高く評価され、2010年には国の重要文化的景観に選定されました。
シチトウイは、水稲と水の利用時期、作業の繁忙期が重複せず、耐久性の高い畳表として多くの需要があったことから、かつては県内でも広く栽培されていましたが、現在は国東半島地域が国内唯一の産地です。い草に比べて強健で耐久性に優れ、柔道場や伝統文化財の畳表に使用されています。
5月上旬に植え付け、「うら切り」や倒伏防止の網を施しながら、植え付けから約90日後の8月上旬に鎌で手刈りされ、縦に二分割された後、約10時間の乾燥作業を経てようやく製織に至るという、極めて労働集約的な作物です。
日本一の蓄積量を誇るクヌギ林と複数のため池が連携したシステムは、日本一の原木しいたけ生産や、国内で唯一のシチトウイ生産など、多様な農林水産業を担うとともに多様な生態系を保全しています。また、六郷満山文化のもと、多くの農耕にまつわる民俗行事が今も継承されています。
安定的に水田農業を営むうえで必要不可欠なため池群の歴史は、11世紀の開田の時期から始まったと推測されますが、その多くが19世紀の人口増加に伴って整備されました。地形的条件から大規模な「ため池」を築造できなかったため、先人たちは小規模な「ため池」を複数連携させて必要な水量を確保する技術を確立しました。
このことにより、互いの受益の水需給を平準化しながら、貴重な水を効率よく分配し、水不足の解消を図っています。
また、ため池間をつなぐ水路を開口とすることで集水域を拡大、より多くの雨水をため池に取り込み、水の安定供給が図られるようになっています。
国東市綱井(つない)地区では、6つのため池を連携させたシステムが江戸時代から今日まで運用されています。最上流にある高雄(たかお)池は水稲の生育後期用として貯水され、それまでの期間は、中流域の3つと下流域の2つのため池が補水し合って給水します。
この地域では、用水供給システムを継続的に運用するための知識と経験の伝承が行われています。ため池に関する操作や管理を委ねられた「池守(いけもり)」という役割があり、水田の水の受給の平準化と少ない水を効率よく公平に使うための取水管理が行われています。両子山頂から放射状に広がる河川のそれぞれで、このシステムが維持管理されていることが、この地域の水田農業の特徴です。
大分県のクヌギの蓄積量は、全国の約24%を占め日本最大です。中でも、この地域の森林面積に占めるクヌギ林の割合は、県平均を上回る11.5%となっています。
これは、特徴的な地理条件のもと、自然環境がクヌギの生育に適していることから、人々の生活の糧として、しいたけ栽培の原木や薪炭用材として盛んに里山に植林してきたことに由来しています。
クヌギは、伐採しても切り株から萌芽(ほうが)して再生するため、木材資源が循環するという優れた特性を持っています。植林されたクヌギ林は、適正な管理を経て、約15年後に原木しいたけ栽培に適したサイズとなります。成長したクヌギは秋に伐採され、しいたけ生産へ供給されます。
伐採後のクヌギの切り株からは翌春新芽が萌芽し、成長に必要な日照と養分を確保するため下草刈りが行われます。
刈られた下草は、次世代の下草の成長を抑えつつ、ゆっくり分解しながらクヌギの成長を助ける養分となり、さらに、落ち葉やしいたけ栽培で使用を終えた原木も、腐植してミネラル豊富な土となり、膨軟な保水層を形成します。
また萌芽から2~3年後には、成長を促進するために芽の数を2~3本残すように整理を行い、やがてクヌギ林は伐採から約15年後に原木として利用できる大きさに再生します。
原木の玉切り・駒打ち[1~3月]
伐採して1~2カ月後に1~1.2mの長さに切る。玉切りされた原木に電気ドリルで植え穴を開け、しいたけ菌糸の入った種駒を植え付ける。
伏せ込み[1~3月]
駒を打った原木は、しいたけの菌糸が伸びやすい場所へ伏せ込む。風通しがよく、日光が直接当たらないようにクヌギの枝をかける。これを「かさ木」という。
ほだ場へ移動
伏せ込んだ後2年目の秋が訪れた時に、しいたけの発生に適した場所(ほだ場)へ原木を移す。
原木はしいたけが発生するようになると「ほだ木」と呼ぶ。
発生、採取
しいたけは主に春と秋に発生する。
適当な大きさになったら、根元の部分を軽くねじるようにして採取する。
品質の高い原木しいたけを栽培するポイントは、使用するほだ場と散水。この地域は冬季に降水量が少なく、低温であるため、水分が必要となるしいたけの発生時期には、ため池を散水に利用するなど、工夫して原木しいたけを生産しています。また、ほだ場も、通常利用するスギなどの針葉樹林ではなく、適度な照度と温度が確保できる広葉樹林を「明るいほだ場」として利用しています。
原木しいたけを、天日または乾燥機などで乾燥させた原木乾しいたけは、その形状や色沢によって「冬菇(どんこ)」「香菇(こうこ)」「香信(こうしん)」などに分けられます。この地域では特有の優れた栽培技術によって、「茶花冬菇(ちゃばなどんこ)」や「香菇」といった貴重で高品質な原木乾しいたけが生産されており、大分県は全国乾椎茸品評会において 21年連続、通算 53回の団体優勝(R1現在)を果たすなど輝かしい成績を収めています。
乾しいたけ生産量 R1年特用林産基礎資料(林野庁)
晩冬から早春にかけて寒い時にゆっくりと成長します。縁を太く巻き込み、傘の肉は厚く、全体が丸みを帯びています。
早春から中春にかけて発生します。冬菇に比べ肉厚で大型で、旨みと香りを兼ね備えています。
中春から晩春にかけて発生。傘が7分開きになってから採取。傘の肉は薄く、へん平な形をしています。
この地域にふりそそぐ雨水は、クヌギの落ち葉などが堆積した土にしみこみ、有機物や栄養塩を含んだ湧水となります。この湧水が植物プランクトンや海藻などの栄養源として、水田農業や沿岸漁業などを支えるとともに多様な生態系を育んでいます。
※栄養塩…植物プランクトンや海藻の栄養となるケイ酸塩、リン酸塩、ショウ酸塩、亜ショウ酸塩などの総称
大規模な水田農業が発展しなかったこの地域では、生計を維持するために水稲を補完する品目を栽培する必要がありました。
かつては、多くの農家が水田農業と原木しいたけ栽培を複合で営んでいましたが、現在では、肉用牛、白ねぎ、こねぎ、ハウスみかんなど多様な品目を産出しています。
また、特色のある品目も多く、「シチトウイ」は、国東半島地域が国内唯一の産地として現存。他にも、大分県特産のカボスや在来品種のみとり豆、おべん柿など地域に根付いた多様な農林水産業が展開されています。
かつて国東半島は、両子山系から放射状に延びる谷筋に沿って成立した武蔵(むさし)、来縄(くなわ)、国東(くにさき)、田染(たしぶ)、安岐(あき)、伊美(いみ)の6つの郷(ごう)、いわゆる六郷と呼ばれていました。
九州最大の荘園領主であった宇佐八幡宮(国宝)とその神宮寺の弥勒寺(みろくじ)の僧が開いた寺院群による神仏習合(しんぶつしゅうごう)の「六郷満山文化(ろくごうまんざんぶんか)」が華開いたことでも知られ、農耕にまつわる民俗行事や食文化が今も継承されています。
※郷…古代の地方行政の単位
※荘園…奈良時代から戦国時代まで存続した貴族・寺社の大土地所有の形態
※神仏習合…神道信仰と仏教信仰とを融合調和すること
前年の収穫に感謝し、新年の豊作を祈る農耕儀礼で、豊後高田市の「天念寺(てんねんじ)」、国東市の「岩戸寺(いわとじ)」「成仏寺(じょうぶつじ)」で行われています。大松明(おおだい)が奉献され、僧侶による法要や鬼の舞踊が行われます。(国指定重要無形民俗文化財)
氏子たちによって仕込まれたどぶろくを氏神に捧げ、水稲の収穫を感謝する白鬚田原(しらひげたわら)神社の祭礼です。氏子中心の祭祀組織と行事を継承しているといわれ、710年から1300年以上も続いています。
地域で採れる旬の農林水産物を活用した郷土料理が数多くあり、各家庭や地域の農村女性などが営む飲食(郷土料理)店で提供されています。
農村女性のグループは、郷土料理の伝承だけでなく地域産品を活用した新メニューの開発など、地域文化の継承や都市との交流を通して地域の活性化を図っています。
本シンボルマークのデザインは、世界農業遺産にふさわしい独自の豊かな個性を表現、人々がシンボルマークを見たときに、心がホッと安らぐ美しい国東半島宇佐地域の里山風景を感じてもらいたいとの思いを形にしたものです。
農村景観の曲線、そして、調和と循環を意図する円の中に、濃い緑 =「クヌギ林」、両サイドの水色 =「ため池群」、黄緑とツワブキ色 =「棚田」という3つの連なる風景を色面で構成しました。
今を生きる人々へ、これからの千年も「調和のとれた、美しい生きた風景」を残してほしいとの祈りがこめられています。
本シンボルマークは、国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会が行う情報発信やイベント等のみならず、世界農業遺産『国東半島・宇佐の農林水産循環』の周知啓発や維持・保全等に資するパンフレット、ポスター、名刺などに幅広くご使用いただけます。ただし、ご使用にあたっては、国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会への事前の申請・承認が必要となります。
詳しくは、世界農業遺産「国東半島・宇佐の農林水産循環」シンボルマーク使用基準(PDF)をご覧ください。
また、ご使用の際は下記の「申請書」をダウンロードしていただきご記入の上、申請窓口まで提出してください。